
Vol.1からの続きです。
健康であることは難しいと。
松浦弥太郎:
なぜかというと、自分の欲望と相当戦わないと健康は手に入らない。それまたなぜかというと、社会がその自分の健康維持のためのルールよりも、美味しいものや気持ちいいものなどをマーケットとして目の前に出してくるから。だから難しいのです。
よくわかります。脂肪の多い食事や時間を奪うスマホゲームなど刹那的な欲望を刺激するものが世の中には溢れています。
じゃあ、お坊さんみたいに東京で生きていかれるのと聞かれると、それは難しいのです。大切なのが自分の中にあるバランス感覚。バランスを取って生きていかないと、自分と社会の関係性の中で孤立するようになってしまうのです。孤立しないようなバランス感覚が非常に必要です。
確かに、30代を超えるとやはり露骨に代謝が悪くなったりして太りやすくなるので欲とのバランス感覚は必須。
そう。そこでやはり俺もう結婚してお金もあるし地位もあるからと言って諦めてしまうと結局はどんどん悪い方に行ってしまうわけです。ある日突然何かやはり健康になりたいからといって、やろうとしてもどうにもならない。とても大きな時間だったりお金だったりをかけないといけなくなってしまう。
なるほど。 先日、話した皮膚科の先生もおっしゃっていて、スキンケアに限った話でいうとスキンケアをするのは今日、明日の話ではなくて、10年後20年後の健康にかえってくるものであると。いつか自分に還元されるものだから、未来への投資でもあるんだよって話をされてました。でも、それだけではなく対社会の中で向き合ってくるものとしても捉えられているのですね。
そうです。だから自分の精いっぱいの社会貢献です。精いっぱいの証なのです。健康であるということは時間をかけて努力するということ。多くの人と向き合う機会の多い経営者の方々に、年齢を重ねて何に一番お金を使っていますかと伺うと健康管理だとみんな言います。健康管理と身だしなみ。ここに一番お金をかけるべきと言います。
もはや、人と向き合うことが多い人にとっては投資ではなく当たり前のことだと。
だから先ほど言ったけども、なかなか言葉とイメージが結びつかないかもしれませんが社会貢献と感謝です。私は思う。そこしかない、ただそこに気がついてる人はそうしてるし、それを気付かない人は別にそうはしない。別にしなくても怒られるわけではないから、それはそれで個人の自由です。だから、食べ物や飲み物だったり、いつ食べるかいつ飲むかそれから量です。あとは睡眠。いつ寝ていつ起きるかとか、適度な運動をするかとか、そういうことがすごく関係してきます。健康管理をして自分を整えていくのは、人と生きていく中で社会貢献のひとつだし感謝のかたちだと思うのです。
そういうことが自覚的になるというか、そういうことまで考える人がいい大人になっていくということなのでしょうか。
結局、それって何だよというと、世の中に対して私なりの感謝のお返しなのですというと、それは社会からそんな感謝をしてくれる、それならあなたを信用しましょう、あなたに何かやってもらいましょうとなるはずです。そうやって社会は成り立っているのだと私は思います。自分の努力がちゃんと循環している。その関係性から生まれる幸せというか、お互いにWin-Winになれる。それって意外と気づかれていないと思う。
以前、弥太郎さんと一緒にやらせていただいた『LifeWear Story100(着るもののきほん100として小学館から出版)』も洋服を通して物よりも人と人とのつながりが一番大事だよという話でした。アメリカという物に溢れた社会の中で日本人である「ぼく」が人の気持ちを大切しながら仕事に恋にゆっくりと成長していきます。
そうです。だから物は好きだけど所有欲はマイナスなんです。ほとんど所有欲はないです。自分が今大切にしているものがある日なくなったら、別になくなったらなくなったです。全く所有欲ないです。家に来て「これいいですね欲しいです」「あげるよ」という感じです。
今、弥太郎さんはその所有意欲がない中で、欲しい物って具体的でも抽象的でも何かあるのですか。
体験したいとか経験したいとかの方が強いです。物はもう十分自分で何か体験したし、大体イメージできてしまいます。自分が所有して使うなり楽しむとした場合に、こんな感じだろうなと分かってします。分かるということはそれまでいろいろな経験をしているし、いろいろ見てきているということ。年齢を重ねると多分みんなこうなると思います。
先ほど僕の質問に戻ってしまうと、より良き男性、素敵な男性になるためには、経験を積み重ねた方が当然いい。そこに至るまでに喜怒哀楽じゃないですけれど、ありとあらゆることを経験しておかないとそこにはいかないですね。
そうです。だから若いうちにいろいろな経験をするべきだし、経験に時間とお金を使うべきだと思います。人生の中でいかにたくさんの感動をするかということが大事だと私は思います。ただ、いかにこれだけの物を買って自分の物にして使ったかではなくて、いかに感動するかだと思います。感動の量が多ければ多いほど、世の中に存在するものの体験は大抵イメージできます。そうするとあれやこれやが欲しいとか思わなくなります。すごいな、格好いいなとは思うけど、欲しいと聞かれたら別にって感じ、大体わかるから。この服すごいね、欲しい、いや着ればどんな感じか大体分かるから。喜びって感動でもある。どんなことでも喜びを見つけられる人っていうのが私にとっての素敵な大人だし私が目指している大人であるってことです。あとそういうことを考えるということが大事なのです。そういうことをちゃんと自分で考えて言語化しておくという、またこれを自分の中で毎日考えて、考えて考え抜いてブラッシュアップさせていく。矛盾があってもいいのです。変えていけば良いのだから。
そういう答えがないもの考えるっていうのは最近では少なくなってきたかもしれません。WEBに全部答えが載ってしまっているし。逆に言うと答えのないものは、そもそも問いが存在していない。
現代人から失われたものの一つに哲学というのがあります。哲学というのは、正しいだろうと思っていることに対して疑いの目を持つということなのです。それは人間にとって非常に大事で、それが人間を成長させ、人類を進化させてきたわけです。でもそれがやはり、今はWEBなり検索なりで何でも答えらしきものが見つかることによって、私たちはそういう頭で汗をかくことをしなくなっているのです。苦しいことをしなくなっているのです。
世の中全体がショートになってきているのかもしれませんね。何か与えられるものに対しては、検索して答えを出すけども、その答えや問いに対して自分から反発したり考えたりするってことは減っていますね。
でもそれをやってる人が結果、成功しているのです。頭で汗をかいて常識に疑いの目を向けて努力してきた人たちです。今までこうやってきたことを何かもっといい方法がないのかって考えて実践してきた哲学者の人たちが成功してるわけです。
苦悩というか問いを乗り越えた人は、人としても魅力的な方が多いと思います。
そうです。やはり私たちは問い続けるということを手放してはいけないと思います。だから全てを受け止める。肯定的に受け止めた上で、もっといい方法はないのか、もっと違う考え方があるだろうという哲学をしていくという、そういう何かまずは自分で考えるということが重要。いまは何でも検索できてしまうし、AIがやってしまう時代が来てしまうかもしれない。でも、そこには考えというものがない。自分で苦悩して哲学をするべきだと思います。
その能力はこれから必須だし、より充実した人生に必要だと思います。本当に考え続け問い続けるのは難しいとは思いますけれど・・・
そうですね。だから一方で何度も言うけど楽な道というのがある。だから、そこから自分がやはり考えていかないと。自分を自分事として生きていかなくてはいけないのです。でも自分を他者にしてしまうと楽になるのです。みんなで一緒の楽な道があるわけです。多分人生楽にAIとかにも、今日はこれやってください、これを食べてくださいとか、これ読んでください、これ遊んでください、とやっていく楽な道もあるけれども、自分の道を行くというのをやはり考えないと本当の意味では楽しくないだろうと思います。
なるほど。最後にこれを読んでいただいている方にエールをお願いします!ビスポークウォッシュという商品は20代後半から40代の働き盛りだけど、肌をはじめ見た目は曲がり角を迎えた男性を中心に使ってもらえると嬉しいなと思っています。
やはり健康管理を自分の一番の仕事にしたらいいのではないかと思いますね。あとで後悔しないためにも。30代に入ると代謝も悪くなるし、いろいろな所で体の変調が現れるから、やはり自分以外のほぼほぼ全てが機械化されていくけれど、自分自身は機械化できないから。やはりそのメンテナンスが必要です。壊れてから直すのはお金と時間がかかる。だから壊れる前に常にメンテナンスをするべき。常にケアを心がける。髪が伸びたから切りましょうよでは遅いのです。要するに、どこかが悪くなったから腰が痛くなったから病院行きましょうではないのです。腰が痛くなる前にちゃんとメンテナンスをするという、自分の非常に高い意識が必要。
都合よく解釈すると、スキンケアも肌がぼろぼろになる前に毎日ちゃんとやれってことですね。
ぼろぼろになっていたらそれをきれいにするには、相当お金と時間かかるということです。スキンケアだけじゃないですけれど、全身、体の健康ということはメンテナンスが絶対必要だから。悪くなってからではもう大変。
ありがとうございました!
終わりに
気がつけば弥太郎さんと話して1時間が経っていました。そういえば、以前ご一緒させていただいたときも打ち合わせや撮影の場でいろいろな話をこうやって伺ったことを思い出しました。あるファッションの話を聞いたら、その話題だけではなくそこから文学や社会、車、料理などなど様々な話題から話題へと派生していき、それはまさに知のエンターテイメント、いや総合格闘技のようなものを体験させてもらいました。また、今回はスキンケアというテーマでしたが、もっと大きな健康管理、もっともっと大きな哲学という話まで。さらに話す内容だけではなく美しい姿勢や佇まいからも多くのメッセージを受け取った気がしました。今回も大きなものを学ばせていただきました。ありがとうございました。